「小・中・高の情報・技術教育シンポジウム」 記録
―小・中・高でのこれからの情報・技術教育の授業と学びの接続を探る―
10月25日(土) 15:00-17:00 オンラインにて
主催:日本産業技術教育学会
※教育新聞:小中高で情報活用能力どう育成? 次期学習指導要領を見据えシンポ
総合司会:村松浩幸氏(技術教育・日本産業技術教育学会・元会長・信州大学教授)
開会挨拶:森山 潤氏(技術教育・日本産業技術教育学会・会長・兵庫教育大学学長)

開会の辞と趣旨説明
森山会長より、「小・中・高の情報・技術教育シンポジウム」の開会にあたり挨拶が行われた。
まず、中央教育審議会において次期学習指導要領の改訂に向け、「情報活用能力の抜本的な向上」が議論されていることが紹介された。その中で、小学校では「総合的な学習の時間」に情報の領域を付加すること、中学校では「情報・技術科(仮称)」として技術・家庭科技術分野を拡充すること、高等学校では情報科の充実を図ることが検討されていると述べた。
これらの改革が実現した場合、小中高を通じた体系的な情報教育が構築され、教育の大きな前進となるとの見解が示された。また、情報活用能力は算数や国語のような単一教科の体系とは異なり、複数の教科や領域を横断する特徴をもつことが指摘された。具体的には、小学校では探究的な学びの中で情報を活用すること、中学校では材料・加工・エネルギー変換などの生産技術による問題解決に情報を生かすこと、高等学校では探究活動や大学・社会でのデータサイエンス・AI教育へとつなげることが、それぞれの段階における重要な役割であると述べた。さらに、本シンポジウムでは、情報活用能力の体系性や段階ごとの特徴について、実践事例の共有を通して議論が行われることへの期待が示された。教育改革の転換期において、現場の教員が期待と不安を抱えている現状にも触れ、学会として現時点で得られる情報をもとに新しい実践のイメージを共有することを目的に本シンポジウムを企画したと説明した。
登壇者として、小学校・中学校・高等学校の各実践者に加え、教育工学・技術教育・情報教育の専門家がパネルディスカッションを行うことが紹介された。
最後に、本シンポジウムが次期学習指導要領の改訂に向けた議論を深め、学校現場の教員の不安を期待に変える契機となることへの期待が述べられた。
小中高の情報・技術教育の展開:山本利一氏(技術教育・日本産業技術教育学会・前会長・埼玉大学教授)

シンポジウムの目的と背景
山本氏は,森山会長の開会挨拶に続き,本シンポジウムの開催趣旨と全体構成について説明した。
まず冒頭で,「本日のテーマは,情報教育と技術教育を往還しつつ,小・中・高・大学を貫く学びの体系を構想することにある」と述べ,本学会の長年の課題である教育段階間の接続を中心テーマに据えた意図を明らかにした。
特に,AIやデータ利活用が進む現代において,「情報を教える」ことから「情報で学びを創る」教育への転換が必要であると指摘。この転換を支えるためには,各段階での実践を単発的に見るのではなく,学びの連続性と構造的な理解をもって捉えることが不可欠であると述べた。
情報教育の現状と課題
続いて山本氏は,現在の教育現場が直面している課題を整理した。GIGAスクール構想により端末やネットワーク環境は整備されつつあるが,その一方でこれらの環境を活かした教育の質的転換を考察する時期に来ていることを指摘した。また,教員の側でも「ICTをどう使うか」という視点に留まりがちであるが,「情報活用能力をどのように育てるか」「探究的な学びの中で,それらをどのように意味づけるか」という教育的設計の視点を更に検討する必要があることを示した。このような状況を踏まえ,本シンポジウムでは,「現場実践を通して情報・技術教育の未来を構想する」ことを目的としていると説明した。
実践報告と討論の構成
山本氏は,シンポジウムの構成を次の三段階として整理した。
1. 小・中・高の現場実践報告
それぞれの段階での授業設計・学びのプロセス・児童生徒の反応などを紹介していただき,情報・技術教育の多様なアプローチを明らかにする。
2. 専門家によるコメント
各実践を研究的・理論的な観点から補足・評価し,教育的意義と課題を整理する。
3. パネルディスカッション
小・中・高・大学を貫く学びの連続性を視野に入れ,「情報・技術教育の体系化」と「探究的学びのデザイン」について討議する。
この三部構成によって,単なる実践紹介ではなく,「現場と理論の往還的検討」を実現することを意図していると述べた。
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情報・技術教育と探究的学びの接点
山本氏は,今回のシンポジウムのもう一つの特徴として,情報・技術教育を“探究的な学び”のデザインという視点から再検討することを挙げた。すなわち,児童・生徒が「情報を使って考える」「自ら問いを立てる」「他者と学びを共有する」プロセスを重視し,情報・技術教育を「学びをつなぐ方法」として位置づけ直す必要があると述べた。そのためには,各教科の中に情報活用の場面を内在化させ,教科横断的に学びを再構築することが求められる。山本氏は,「情報教育とは,単独教科ではなく,学びの構造そのものを設計する領域である」と示した。
討議への期待と呼びかけ
最後に山本氏は,今回のシンポジウムが「これからの教育への示唆」になることを期待し,登壇者・参加者に向けて次のような三つの視点を持って議論に臨むよう呼びかけた。
1. 教育段階を超えた学びのつながりを意識すること
2. 理論と実践を対話的に結びつけること
3. 学びの変化を真摯に受け止めそれらへの対応方法を考えること
そして,「今日ここに集まった多様な立場の皆さんとともに,これからの情報教育の姿を“共に描き出す”場にしたい」と述べて,趣旨説明を締めくくった。
小学校実践報告「情報活用能力をSTEAM的視点から教科横断的に育成する小学校の実践」
発表者:林 孝茂氏(兵庫教育大学附属小学校・教諭)

実践報告資料(PDF)
実践の概要
林氏は,附属小学校で実施している「情報活用能力を育てる教科横断的な授業」について報告した。
この実践は,理科・国語・算数・音楽・総合的な学習の時間など複数の教科を連携させ,児童が自ら課題を設定し,情報を収集・整理・表現・振り返る一連の学習過程を通して成長していくことを目指している。授業の根底には,「知る学び」と「つくる学び」を循環させるSTEAM的授業設計理念がある。児童が自らの生活や身の回りを観察し,課題を発見し,解決に向けて情報を活用する中で,教科の知識が実社会と結びつくよう意図されている。
授業の構成と展開
観察と記録の活動
最初の段階では,児童が自分の興味に基づいて観察テーマを設定し,カメラやタブレットを使って情報を収集した。写真や動画の撮影は,単なる記録作業ではなく,「何を」「どの視点で」捉えるかを考える学びとして位置づけられている。児童は手書きのメモやスケッチと併用しながら観察を進め,アナログとデジタルを組み合わせた多様な表現を体験した。
情報の整理と表現
観察で得たデータは,児童が自分の考えに基づいて整理・構造化した。
スライドアプリやイメージギャラリーなどを用いて,写真や記録を分類・比較し,視覚的に意味をもたせながらまとめる活動が行われた。地域の「まち探検」では,撮影した写真の位置情報を利用してデジタルマップを作成し,自分たちの体験を整理して共有した。児童たちは情報を「つなぐ」ことで,新たな発見や関係性を見いだしていった。
教科横断的な学びの展開
理科や国語などに加えて,算数や音楽とも連携した単元構成が特徴である。算数で学ぶ「水のかさ」と,音楽で学ぶ「音の高さ」を結びつけ,水の量を変えながら音を出してデータ化する活動を通して,数量と感覚の関係を探究した。児童たちは,データを表にまとめる中で,音の高さが等間隔で変化しないことを発見し,感覚的な理解と数理的な分析を往還させた。このような活動により,教科をまたいで「情報をもとに考える力」が自然に育まれている。
成果の共有と振り返り
学習の成果は,スライド発表や壁新聞など多様な形で表現され,児童同士で共有された。
授業では発表のたびに相互コメントを行い,友だちの意見をもとに作品を改善する機会を設けた。単元の途中にも助言や振り返りを挟み込み,児童が学習の途中で自らの理解や表現を見直せるようにした点が特徴である。このような取り組みが,単なる発表会ではなく「考えを更新し続ける学び」として機能している。
探究活動への発展
学期の後半では,「あったらいいなを叶えるロボットで暮らしを良くしよう」という課題に取り組んだ。児童たちは身の回りの不便を出し合い,「誰かのために役立つロボット」をテーマにアイデアを発想した。プログラミングと工作を組み合わせた試行錯誤を通して,お掃除ロボットなどを完成させ,作る喜びや社会とのつながりを体験した。活動の目的は,ものをつくる技術そのものよりも,課題発見・解決のプロセスを自分たちで組み立てる力を養うことにある。小学校段階から中学校技術科への学びの接続も意識されており,探究的学習への自然な発展が見られた。
研究者コメント:佐藤和紀氏(教育工学・日本教育工学会・理事/日本教育工学協会・常任理事・信州大学准教授)

佐藤氏は,林氏の実践が示した教育モデルを高く評価した。
まず,学びの展開が「作ってみよう」から「探究してみよう」へと段階的に発展している点を指摘し,児童が主体的に学びの意味を捉え直す構造が整っていると述べた。観察や記録,発表といった活動が単発的に終わらず,形成的評価を通して学びの循環を支えている点が特徴的であるとした。
次に,教科横断的な構造に着目し,国語での表現活動,理科での観察活動,総合的なまとめが一体化している点を高く評価した。それぞれの教科が独立して存在するのではなく,「情報を通じて学びがつながる」仕組みとして設計されており,小学校段階でのカリキュラム設計の好例であると指摘した。さらに,情報教育を専門としない教師にも実践可能な設計や見せ方をしていくことの重要性を述べた。ICTやデジタルツールに不安を感じる教員でも,教科の中で自然に情報活用を位置づける方法として参考になるように共有していくよう,コメントした。
中学校実践報告「生活からつながるAI・データを活用した技術科授業」
発表者:長谷川愛氏(お茶の水女子大学附属中学校・教諭)

実践報告資料(PDF)
実践の概要
長谷川氏は,中学校技術・家庭科(技術分野)における3年間の学習の流れを示した上で,情報の技術の内容の実践を紹介した。特にAIに関する授業は,ただAIに質問をして答えを得るだけではなく,仕組みを体験的に理解し,生活や社会での活用に目を向けて「自分たちが適切に活用し,生活や社会に役立てていくものである」という意識を持たせることを目的としている。生徒たちは,既習の身近な問題解決を起点に,AIの仕組みを理解し,データ活用の方法を考えながら,技術とひと・もの・ことの関係性について考えた。長谷川氏は,AI教育を単なる操作学習ではなく,社会的文脈の中で技術を活用し,創造的な課題解決につなげる新しい技術分野のあり方として位置づけている。
授業の構成と展開
生活からつながる情報の技術
授業の導入では,「生活を支える情報の技術」を主題とし,企業との連携のもとで生活や社会を支えている情報の技術について体験的に学習した。その後,生徒たちは身近な生活の中から課題を見つけ出し,プログラムの制作を通してそれをどのように解決できるかを考えた。たとえば,出欠確認システムなど,学校生活での課題を題材にしたアイディアが多く挙がった。ここで実現が難しかったものを生成AIをプログラムに組み込むことで実現する取り組みや,同じ問題を解決するプログラムを生成AIにコーディング・デバッグさせる取り組みを通して,生徒たちは「技術を使う」立場から「技術をつくる」立場へと視点を転換していった。授業は,社会・技術・倫理を横断的に捉える探究的学びの場として構成されている。
学習内容:データとAIのしくみ
AIの仕組みについての学習内容では,AIによる画像認識を用いた機械学習モデルを作成する活動を行った。生徒たちは,AIが判断を行うために必要な「データの質と量」を実際に扱いながら,機械学習の考え方を体験的に理解した。従来のプログラミング授業が「正解をつくる」ことに焦点を当てていたのに対し,この授業では,「どのようなデータを使うか」「AIが誤るのはなぜか」を考える方向にシフトしている。AIの限界や偏りに気づき,それを補う工夫を考えることで,技術的理解とともに倫理的視点も育成された。このような活動は,生徒に「AIに使われる側ではなく,AIを理解して使いこなす側になる」という意識をもたらした。
成果と学びの様子
授業の終盤では,既習の生物育成の技術とも関連して,水産養殖×テクノロジーに取り組む企業のエンジニアによる特別講義を受けた。AIとIoTを使ったスマート自動給餌機などの製品について話を聞き,今まで学習してきたAIは生活や社会の様々な場面で活用されているものであることを実感した。これらの実践を通して,生徒たちは「AIは便利なツール」というだけではなく,「人間の判断や社会的な価値観を反映する仕組み」であることを理解していった。AIを批判的に捉えつつ,創造的に活用する姿勢が形成されたことが,この実践の大きな成果である。また,AIやデータサイエンスの基礎的理解に加え,社会・技術・生活が相互に関わり合うという複合的な視点が育まれた。生徒たちは,技術を社会課題の解決に応用する“拡張されたものづくり”の概念を体験的に学び取った。
教育的意義と示唆
今回の取り組みを通じて,技術科を「デジタル×フィジカルの融合領域」として再定義する必要性が感じられる。AIやデータの扱いは,単なる情報処理ではなく,社会における技術の意味を問い直す契機となる。生徒たちがデータを扱いながら自分の考えを検証し,他者と関わり合いながら思考していく過程は,まさに探究的学びそのものである。技術科が,思考・判断・創造を支える「探究の場」として再評価されるべきであることを示した実践であった。
研究者コメント:岡本牧子氏(技術教育・日本産業技術教育学会・副会長・琉球大学教授)

岡本氏は,長谷川氏の実践について,AIを「ものづくりの過程を拡張する要素」として位置付けた点に新しさがあると評価した。従来の技術教育では,AIやデジタル技術が“外部の補助ツール”として扱われることが多かったが,この実践では,情報活用が設計や試作の段階に組み込まれ、試行錯誤の中で学びが循環する構造を形成していると述べた。また、「生活→構造理解→社会課題解決」という学びの流れが明確に設計されており,生活起点から社会的文脈へと発展する螺旋的な構成を高く評価した。さらに、生成AIやTeachable Machineの活用を通してデータと学習の関係を理解させる教材として有効であると指摘した。AIを扱う授業が今後の情報モラルや著作権、制度面とも関わることにも触れ、教育現場だけでなく、行政や学会など多方面との連携によってその教育的意義を深めていく必要があると述べた。
高等学校実践報告「情報Iにおける探究的学びと意思決定支援の授業設計」
発表者:小原 格氏(東京都立国立高等学校・指導教諭)

実践報告資料(PDF)
実践の概要
小原氏は,高等学校「情報I」における探究的学びと問題解決型の授業設計について報告した。
本実践は,中学校段階までに培われたプログラミングやデータ活用の基礎を踏まえつつ,高校段階での「情報デザイン」「プログラミング」「データの活用」を用いた問題解決という視点に焦点を当てた授業づくりを特徴としている。導入の授業では,中学校までに学習するべき内容の復習も兼ねて,プレゼンテーション・表計算・グラフ作成などのスキルを単なる操作訓練ではなく,意思決定や課題解決のための探究的手段として位置づけた。これにより,生徒はツールを「操作そのものを身につけることを目的とする」のではなく,「問題を解決させるための手段として活用する」問題解決的な学びへと移行した。
授業の構成と展開
情報や情報技術を活用した問題解決を軸とした構成
授業は「問題解決」を主題に据え,情報や情報技術を活用してより良い解決を行う過程を体験的に学ぶよう設計された。
1学期当初の授業は,問題解決そのものの考え方を学ぶ内容として,課題に対して複数の解決案を立案し,表計算を用いて定量的に比較・評価する活動などを行った。
たとえば,身近なテーマを題材とし,意思決定の場面として表計算ソフトウェアを活用して「コスト」「効果」「実現可能性」といった評価軸を自ら設定して分析を行う。さらに,意思決定の根拠を「手軽さ×効果」など複数軸で可視化し,説得力のあるプロセスを通して,情報の整理・表現能力を高めた。
ツール活用の目的化とメタ認知
この実践の中心にあるのは,ツール活用の「目的」である。単に「Excelを使う」「スライドを作る」という操作が目的なのではなく,「ツールを使うことによって問題を解決する」「意思決定などの効果的な場面で活用できる」ことである。生徒は,表計算によって数値的な妥当性を確かめたり,グラフ化によって傾向を見出したりする中で,自らの判断をデータに基づいて検証する姿勢を育んだ。このプロセスにおいて,ツールは“単なる操作を覚える為の機械”ではなく,“思考を支え、問題を解決するための道具”として機能している。
探究的学びとの接続
2学期以降の授業では,中学校までのプログラミング的思考の学びを振り返りつつ,高校段階では「プログラミングも活用した問題解決」の実践も行うとともに、社会課題を扱った探究的な活動も行った。
生徒は公開データを分析し,身近な地域や社会の課題を見つけ出した。たとえば,交通量データやエネルギー使用量などをもとに,環境負荷の少ない生活スタイルを提案するなどの例が見られた。
また、これにより,情報活用の学びをデータサイエンス的探究として深化している。
形成的評価と振り返りの仕組み
授業の各段階では,生徒同士の相互コメントや教員による助言を取り入れ,形成的評価のサイクルが意識的に組み込まれている。
生徒は他者の視点から自分の意思決定の根拠を見直し,より客観的な判断に修正していった。また,デジタル学習基盤を活用し,課題提出やコメントを共有することで,学習の履歴を可視化しながら改善を重ねる仕組みが機能している。このように,形成的評価が「学びを進める力」として作用する授業設計がなされている。
教育的意義
この実践の意義は,情報Iの授業を単なる「スキル習得」ではなく,探究的意思決定を支える学びの場として再構成している点にある。情報活用能力を,他教科の学びや社会生活における「基盤的リテラシー」として再定義し,問題の発見から解決を行う為に情報や情報技術を活用し,データを通じて自分の考えを説明し,根拠に基づいて判断する力を育てている。
特に,形成的評価を組み込んだ学習設計は,「自らの思考をメタ的に振り返る」ことを促す仕組みとして効果的に機能している。これにより,生徒は「情報を使って考える」だけでなく,「考えるために情報を活用する」姿勢を身につけた。
研究者コメント:稲垣俊介氏(情報教育・情報処理学会・日本情報科教育学会・山梨大学准教授)

稲垣氏は,小原氏の授業実践を,情報教育の核心を具体化したモデルとして高く評価した。
まず,課題設定からデータ収集・整理・分析・表現・相互評価・修正へと至る一連のサイクルが明確であり,「学びが停滞せず循環する構造」が形成されていると述べた。さらに,この学習過程における「言語化」の重要性を指摘した。
生徒が「何を問題とし,どのように解決を試みたのか」を文章やスライドで明示する過程が,情報活用能力と言語能力の双方を相互に高める機能を果たしている点に注目した。稲垣氏は,こうした設計が「探究サイクル」「言語化」「形成的評価」の三要素を有機的に統合しており,主体的・対話的で深い学びの実現に寄与していると位置づけた。また,教師の観点を明確にした評価設計が学びの状況把握を支え,生徒同士のフィードバックを通じて次の行動へと接続する仕組みが確立されていることを評価した。最後に,稲垣氏は,小原氏の実践が情報活用能力と探究的学びの一体的充実を体現していると述べた。情報教育が,ツール操作を超えて「思考・判断・表現」を支える教育として進化していることを示す好例であると結論づけた。
パネルディスカッション
冒頭説明:山本氏
趣旨説明
山本氏は,3名の実践報告とそれぞれに対する研究者コメントおよび,会場の参加者に感謝を伝えつつ,全体の議論をさらに深めるためのパネルディスカッションに移行する旨を述べた。
これまでの小・中・高の実践報告を踏まえ,「ここで深まりきらなかった論点を,残された時間の中でできるだけ掘り下げたい」と語り,各登壇者に改めて拍手と感謝を呼びかけた。
その上で,「今後の議論では,研究者の立場から各実践を俯瞰的に整理し,小・中・高を通した体系的な見方を提示してほしい」と,パネリストの提案の方向性を示した。
議論の焦点の提示
続いて山本氏は,これまでの発表で浮かび上がった二つの軸を指摘した。
第一に,「情報活用能力と探究的学びの接続」,第二に「教科横断的な実践の構造化」である。これらを共通テーマとして,大学教員を中心とした研究者の視点から,学校段階間の連続性を論理的に整理していくことがパネルの目的であると述べた。
その際,「小学校・中学校・高等学校それぞれの実践を通して,学びの構造がどのように成長していくのか」を焦点に据えるよう求め,討論の方向を示した。
パネルディスカッション1:佐藤氏
小学校における情報活用能力の現状と課題
発言の導入と立場の明示
佐藤氏は,冒頭で自身の立場を示し,教育工学・情報教育・メディアリテラシーを専門とする大学教員として,また愛知県春日井市の研究開発学校の指導運営委員,文部科学省の情報活用能力関連の委員としての経験や立場を踏まえ,小学校現場の状況を俯瞰的に整理した報告を行った。
AIやGIGAスクール構想,生成AI活用の動向など,教育情報化政策との関係を意識しながら,小学校における情報教育の現状と課題を実践・研究双方の視点から総合的に論じた。
情報活用能力の現状分析
まず佐藤氏は,「学校現場で“情報活用能力”という概念が十分に理解されていない」と指摘した。
その背景として,2014年度に実施された情報活用能力調査以降,現場での概念整理が遅れていること,
また,ICT環境の整備が進む一方で,児童の学びにどのように情報活用を結びつけるかというカリキュラム的再設計が不十分である点を挙げた。
多くの教員が「情報活用能力=ICT操作」と捉えてしまう傾向にあり,「情報を使って考える」「情報を構造化して表現する」といった思考的側面の理解が浅いことが課題として示された。この認識のずれが,教科横断的な情報教育の展開を阻んでいると分析した。
教育実践の課題と展開方向
佐藤氏は,現場実践において,単元設計の段階から「情報をどう使うか」を中心に据えることの重要性を強調した。特に,児童が自ら課題を設定し,観察・記録・表現・振り返りを繰り返したり,戻ったりしながら思考を深め,問題解決,探究していくプロセスを支援する授業づくりが求められると述べた。この点で,林氏の報告を引きながら,教科の中に情報活用を位置づける実践が,児童の主体的学びを支える有効なモデルであると評価した。
また,情報活用能力の必要感は,教師主導の学習観のみならず,学習者主体の学習観でこそ感じられ,自らが学びを進め,深める学習でこそ情報活用能力の育成と発揮が進むことを示した。
形成的評価とリテラシー育成の関係
次に,形成的評価の仕組みが情報教育の質を高める上で不可欠であることを論じた。
単に成果物を評価するのではなく,児童が自分の考え方や情報の扱い方を客観的に振り返るプロセスが必要であり,これをポートフォリオやデジタル記録を通して支援する仕組みが効果的であると述べた。
このような評価の在り方は,児童の自己省察能力を育むと同時に,情報活用を「自分の思考を支える方法」として再認識させる教育的意味を持つ。形成的評価は,情報教育の枠を超えて,思考力・判断力・表現力の育成を支える共通基盤になると位置づけた。
小学校段階での重点課題と提言
佐藤氏は,最後に今後の重点課題として以下の三点を整理した。
1. 概念の共有と再定義:
教員間で「情報活用能力とは何か」を共通理解することが第一歩である。
それにより,教科横断的な指導設計が可能になる。
2. 実践モデルの体系化と共有:
地域や校種を超えて実践事例を収集・発信し,授業設計・評価方法の共有を進める。
3. 教師の支援体制の整備:
特定のICTが得意な教員に依存せず,全教員が情報教育に関与できる校内体制を構築する。
また,生成AIなど新しい技術の教育利用については,単なる話題導入にとどめず,情報倫理・判断・創造の育成に結びつける教育的設計が不可欠であるとまとめた。
司会コメント:発言者:山本氏
佐藤氏による小学校における情報活用能力の現状分析を受けて,その内容を全体の文脈に位置づけながら,パネルディスカッション全体の方向性を再確認するコメントを述べた。特に,佐藤氏の報告が「小学校段階での課題整理と理論的再構成」を的確に行っていたことに触れ,「情報活用能力の概念を教科と領域が連携してどう育てるか」という論点が,この後の中学校・高等学校への議論の出発点になることを強調した。
小学校段階の意義の整理
山本氏はまず,佐藤氏の報告の中で示された,「情報活用能力の適切な認識」と「教科横断的な学びへの展開不足」という指摘を重要な視点として取り上げた。
小学校ではICT機器の導入が進んでいる一方で,児童が“情報を使って考える”経験を系統的にすすめられている状態にまではまだ到達していない現状を指摘し,これは日本全体の教育課題として共通する問題だと述べた。
その上で,「情報教育を特別な教科や時間としてではなく,国語・理科・社会など日常の学びの中で自然に扱う方向が理想的である」とし,佐藤氏の報告がその方向性を示すものであると評価した。
理論と実践をつなぐ視点
山本氏は続けて,佐藤氏の報告が「理論的分析」と「実践的提言」をうまく接続していた点に注目した。研究としての分析だけでなく,現場で実際に取り組むためのヒントや枠組みが提示されており,「理論と実践の往還を示す報告」であったと述べた。児童の思考や学びのプロセスを可視化し,それを再び授業設計に還元するというアプローチは,情報教育に限らず,学習評価全般に示唆を与えるとコメントした。
全体への接続と次への橋渡し
最後に山本氏は,佐藤氏の報告を「パネル全体の起点」と位置づけ,今後の議論を中学校・高等学校段階に発展させていくことを参加者に促した。その上で,「小学校で育った“情報を活用する学び”が,中学校・高等学校でどのようにAIやデータ活用,意思決定支援へとつながっていくのか」という連続性を意識して聞いてほしいと述べ,岡本氏への発表に繋いだ。
パネルディスカッショ2:岡本氏
中学校技術科におけるAIとものづくりを接続する学びのデザイン
問題意識
岡本氏は,技術科教育におけるAI活用の意義と今後の展開について,研究と実践の両面からコメントを行った。冒頭では,「手を動かしてものづくりを行う活動を中心に据え、AIや情報技術を設計支援として拡張的に活用することが重要である」と述べ,AIを外部ツールではなく、設計や改善のプロセスに内在化する視点を提示した。小学校のプログラミング教育を「生活起点の構造理解」として位置付け、中学校では設計思考や評価・改善を中心にAIを活用することで、情報活用とものづくりが往還する学びが形成されると述べた。
制度・カリキュラムへの示唆
さらに、小・中・高の教育内容の連続性を踏まえ、段階的な学びの展開像を示した。すなわち、小学校では明示的なコマンドによる問題解決を通じてプログラミング的思考の基礎を培い、中学校では設計プロセスにAIを導入して具体的な試作・検証に活用し、高校では抽象的なモデル化と社会的応用へと発展させる流れを示した。これにより、生活課題から社会的課題へと発展する技術教育の体系が形成されると述べた。
また、AIリテラシー育成の観点から、知識理解・活用実践・態度形成の三つの側面を一体的に扱う必要があると述べた。AIが出力した結果をそのまま受け入れるのではなく、判断の妥当性や安全性、権利や倫理の観点から見直す態度を育むことが重要であると指摘した。これらの学びは、AIの推論と現実のものづくりを接続する中で初めて成立するとし、実際に手を動かす活動がAI教育の核心になるとした。最後に、授業時間数や機材、教員養成などの課題については、教育委員会や学会との連携を通して解決を図る必要があると述べ、AIを活用した技術科教育の新たな方向性を示した。
司会:山本氏
岡本氏の中学校段階の報告を受けて,技術教育と情報教育を橋渡しする視点からコメントを述べた。発言の冒頭で,「工学的な観点を踏まえた理論的整理が非常に示唆的であった」と評価し,技術教育は,社会とテクノロジーの関係を構造的に捉える“学問としての技術教育”の側面を明確にしていたと述べた。
中学校技術科におけるAI・情報教育の意義
山本氏は,岡本氏が指摘した「AIをものづくりの過程に組み込む」という視点に強く賛同し,それを中学校段階で実現することの意義を次のように整理した。
・一つには,抽象的な情報の概念を実際のものづくりを通して具体化できる点であり,
これは情報教育の理解を深める上で極めて重要である。
・もう一つは,現実の手を動かす学びとデジタル的思考の統合が,
生徒にとって「技術」を生活や社会と結びつける経験となるという点である。
山本氏は,「AIやデータ活用を机上の学問として扱うのではなく,生活に根ざした技術として学ばせることが中学校段階の核心である」と補足した。その手段のひとつがプログラミングやロボティクスなどが考えられる。
小・中・高の接続への視点
次に岡本氏の話を全体の接続構造の中に位置づけた。小学校では「タイピングや基本操作を通じて情報に慣れ親しむ段階」,中学校では「仕組みを理解しながら手を動かす段階」,そして高校では「抽象的な情報構造を扱う段階」へと進むという三層構造を示し,この連続性が情報教育の体系化において欠かせないと述べた。特に,「技術科で扱う“リアルなものづくり”が高校の情報科の抽象的思考につながる」という岡本氏の指摘は,今後のカリキュラム編成の鍵になると示した。
まとめと次の発言への橋渡し
最後に岡本氏の報告を「工学的知見を教育的文脈に捉えた貴重な提案」と位置づけ,AI・データ・設計思考を含む技術教育の拡張的可能性に言及した。その上で,パネル全体の議論を高校段階へと進めるため,「今後,情報教育の抽象化がどのように行われるか」という問題提起を行い,
次の発表者である稲垣氏につないだ。
パネルディスカッション3:稲垣氏
高等学校における情報教育の課題と展望
稲垣氏は,冒頭で「高等学校の情報科の実践を基点に,初等・中等教育全体の連続性を考えたい」と述べ,小原氏(高等学校情報科)の報告を踏まえて,学習指導要領との関係および教育段階間の接続の視点から論じた。自身の経歴として,東京都立高等学校で17年間,情報科教員として授業改善に取り組んできた経験を紹介し,現場実践と研究の双方から高校情報教育の課題を整理する立場を明確にした。
現行学習指導要領と情報教育の到達点
まず稲垣氏は,現行の高等学校学習指導要領における「情報Ⅰ」の導入がもたらした変化を指摘した。特に,共通必履修科目として全国の高校生が情報の基礎を学ぶようになったことを評価した。また,情報教育が「プログラミング」「データ分析」「情報デザイン」など多領域に広がっているからこそ,それらを相互に関連づけ,社会的課題の解決に生かすカリキュラム設計の重要さを強調した。
高校情報科の実践課題と改善の方向性
続いて,稲垣氏は自身の実践経験を基に,授業改善の方向性を具体的に述べた。
重要なのは「情報の学びを実生活や他教科と結びつけること」であり,プログラミングやデータ分析を“目的化”せず,課題解決の文脈で活用させる必要があるとした。このとき有効となるのが,
・探究のサイクルを支える形成的評価(自己評価と相互評価の可視化),
・言語化による思考の深化(学習プロセスをメタ認知する振り返り),
・教科横断的なテーマ設定(理科・社会・国語との連携)
であると整理した。
これらを通じて「学ぶための情報活用」から「創造するための情報教育」へと進化させることが,情報教育の本来の目的であると述べた。
初等・中等教育との接続構造
稲垣氏は,情報科は「情報活用能力の向上」のための重要な役割を果たすことを強調した。小学校でのタイピング・情報活用の基礎,中学校での構造理解・ものづくりの体験を踏まえ,高校ではそれらを抽象的な情報構造(データ・アルゴリズム・システム)へと発展させる段階であると整理した。この段階では,生徒が「なぜデータを扱うのか」「AIはどのように判断するのか」といった問いを立て,自分自身の生活や社会の課題と結びつけて考える力を育てることが鍵になると述べた。
教員研修と今後の展望
最後に,稲垣氏は「高校情報科の質を高めるためには,教員研修の再設計が不可欠である」と指摘した。現職教員がAI・データ・情報倫理など新しい内容に対応できるよう,大学や教育委員会,企業が連携した研修体系を整える必要があると提言した。また,情報科の実践は単独で完結するものではなく,「情報と探究」「情報と(実際の)社会」「情報と創造」のような連携的展開を通して,次世代の市民的リテラシー形成に寄与することを目指すべきだとまとめた。
パネルディスカッション中間まとめ:山本氏
全体の流れの整理と評価
山本氏は,稲垣氏の発表を受けて,これまでの小・中・高それぞれの実践と研究報告を総覧し,パネル全体の議論の流れを整理した。まず,小学校の佐藤氏による報告では「情報活用を経験し慣れ親しみむ学び」,中学校の岡本氏による報告では「技術と社会を結ぶ創造的学び」,高等学校の稲垣氏による報告では「探究と意思決定に基づく学び」が示され,それぞれの段階が有機的につながっていることを確認した。山本氏はこれを,「情報・技術教育の体系が,“学びの成長の構造”として捉えることが大切である」と述べ,各実践が連続的に子どもの思考力・判断力・表現力の育成に寄与している点を高く評価した。
学びの循環と探究の共通構造
次に山本氏は,各報告に共通する「探究の構造」として,次の三つの視点を整理した。
1. 課題設定から始まる学び
すべての実践が「自分ごととしての問題発見し課題を設定する」を出発点にしており,
学習者の主体性を引き出している。
2. 情報を活用した思考の可視化
児童・生徒が情報を整理・表現しながら自らの考えを構造化していく点で共通している。
3. 振り返りを通した学びの更新
途中での振り返りやポートフォリオの活用によって,
学びが自己修正的に進む循環構造が実現している。
山本氏は,これらの共通要素が「情報教育を支える学びのプロセス」であり,
単なるICT活用の枠を超えて「学びをデザインする教育」の原型を示していると述べた。
情報教育の課題と今後の在り方
続いて,今後の情報教育の在り方として,「教科に付加された内容」だけでなく「教科を貫く基盤の力」として捉える必要があると指摘した。すなわち,情報活用能力は国語・理科・社会などあらゆる学びの根底に流れる共通の学力であり,それをどのように体系化・評価していくかが今後の教育研究の課題になると述べた。また,AIやデータサイエンスなど新しいテーマを扱う際には,「新しい内容を“加える”のではなく,“学びの構造を更新する”発想」が重要である。教育現場は,技術の変化に受け身で対応するのではなく,「学びをどう設計するか」という視点から主体的に技術を位置づけるべきだと述べた。最後に,こうした全体整理を踏まえ,議論を受けて,パネリストの皆さんに一言ずつ発言を依頼した。その際,「自分たちのステージの視点で,情報教育の課題を示し,それらの解決策を示してください」といった論点を提示し,討議を最終ステージへと導いた。
登壇者最終コメント
佐藤氏 ― 「学びのプロセスを支える情報教育へ」
佐藤氏は,小学校を中心とした議論を総括しながら,「情報教育の目的は“わかるようにすること,できるようにする”ことだけではなく(学習内容),“学びを支える側面もある”(学習方法,学び方,問題解決の方法)」と述べた。
これまでの実践や議論を通して見えてきたのは,児童生徒が自ら課題を見つけ,情報を整理し,他者と共有して学びを発展させるという循環的な構造の重要性である。情報教育はそのプロセスを支える基盤として,各教科の中に自然に埋め込まれることも必要と述べた。
また,形成的評価やポートフォリオを活用することで,児童生徒が自分の思考や表現の変化を客観的に捉えられるようになる点にも言及。
こうした仕組みを通して,「学びが続いていく教育」を設計することが今後の課題であると述べた。最後に,「学校段階を越えて教師自身も“情報活用的に学ぶ”姿勢を持つことが大切である」とし,教育者の学びの在り方にまで視点を広げて発言を締めくくった。
岡本氏 ― 「技術科の再構築とAI時代の学び」
岡本氏は,中学校段階の立場から,AI・データ活用を含む技術教育の将来像について述べた。
情報活用能力を単なる知識技能の習得ではなく、「活動の中で育まれる力」として捉えることが重要であると述べた。GIGAスクール構想による一人一台端末環境の効果に触れ、入力や問題解決などのスキルが向上したことで、プログラミング教育が学びの基盤として定着しつつあると指摘した。そのうえで、中学校では「手を動かすのもづくり」を通してプログラミング的思考を体感的に理解させることが不可欠であると述べた。AIや生成AIを活用する際、出力結果が推論であることを理解し、何が適切で何が不十分かを判断できる感覚が、リテラシー形成の基盤になると指摘した。さらに、このような学びを通して、高校段階での情報科学的な抽象理解へと自然に接続できると述べ、中学校技術科の役割を「リアルなものづくりと情報学をつなぐ教育」と位置付けた。最後に、AI時代においては、技術教育が「手を動かす学び」と「考える学び」を融合させる探求の場となるべきと提案した。
稲垣氏のコメント― 「探究を通じた情報教育の深化」
稲垣氏は,高等学校の立場から,議論全体を俯瞰的に整理した。
「小・中・高を通して一貫しているのは,“情報を使って考える学び”の重要性である」とし,それが「探究的な学び」の核を形成していると述べた。特に,データを基に判断し,他者と議論しながら意思決定していく学びが,現代社会に求められる市民的素養の育成に直結することを指摘した。
情報教育は,単なるスキル教育ではなく,知識を社会に生かす力=社会的探究力の育成を担うべきであると強調した。また,今後の課題として,教員の専門性と教科横断的な実践力の両立を挙げ,「情報教育を支える教師自身の学びの共同体」を形成する必要性を述べた。学校間連携・地域連携を通じて,教育現場全体で学びの共有を進めることが重要であるとまとめた。
パネルディスカッション最終総括:山本氏
全体の総括と登壇者への評価
山本氏は,パネルディスカッションの終盤で,登壇者全員の発言に感謝を述べ,今回のシンポジウムが「小・中・高それぞれの実践を通して,情報教育の新しい体系像をイメージできたことは意義深い」と総括した。特に,3名のパネリスト(佐藤・岡本・稲垣)の最終コメントが,それぞれの教育段階を超えて共通する「学びの循環」や「探究の構造」を浮き彫りにした点を高く評価した。
「この議論は単なる事例紹介ではなく,学びをどう設計するかという教育の根本問題に迫るものであった」と述べ,本シンポジウムが持つ理論的・実践的な価値を位置づけた。
情報教育の核心としての「学びをつなぐ力」
次に全体のテーマを一言で表すなら「学びをつなぐ情報・技術教育」であると整理した。
小学校での「情報の基礎を学びそれらを使って考える力」,中学校での「情報と技術を結びつけて構造を理解する力」,高等学校での「情報をもとに意思決定し,社会へ働きかける力」――これらが相互に連関しており,学びの流れを形成していると述べた。
この構造は,情報・技術教育を単独の教科としてではなく,“学び全体をデザインする共通基盤”として捉える新しい視点を提示している。情報は「知識を得る手段」ではなく,「学びを構築し,社会を変えていく力」であると位置づけた。
教師の学びと教育の持続性
教師の側にも“情報活用的な学び”が求められていると述べた。児童生徒に探究的な学びを求めるだけでなく,教員自身がデータを読み解き,授業を改善し,他の教員と学びを共有していくことが,学校全体の成長を支えると指摘した。情報教育の深化は,ツールの導入や一部の熱心な実践に依存するものではなく,学びプロセスを更新し,最適解を探究することことだ。この点で,現場・大学・教育行政・研究者が連携して「学びを支える仕組み」を構築することが不可欠であると述べた。
今後への展望と社会への接続
さらに情報・技術教育の未来を見据えて,「AI・データ・ネットワークが当たり前に存在する社会において,教育の役割は“情報・技術を扱う力”から“情報・技術でよりよく生きる力”へと転換していく」と語った。
そのためには,教育現場が「不確実な時代における探究のデザイン」を担い,子どもたちが自分の問いをもち,社会と協働して学ぶ力を育む必要がある。情報・技術教育は,こうした未来社会における人間的な学びの繋がりをつくるものであり,技術を媒介として人間の創造性・倫理・関係性を再構築する教育として発展すべきだとまとめた。
最後に,「今日の議論から,情報・技術教育の“次のステージ”に繋げることが大切である。それは,情報・技術の理解にとどまらず,情報・技術を通じて新しい学びを構想することまでを目指すことができれば。」と述べ,全体を締めくくった。また,各登壇者および参加者への感謝を述べ,「このシンポジウムが,今後の実践と研究をつなぐ出発点になることを願う」と述べて,セッションを閉会した。
参加者の事後アンケートから
多くの参加者が,シンポジウム全体を通して大変有意義で学びの多い機会だったと評価しています。
異なる校種の実践を知り,自身の教育実践を見直すきっかけになったという声が多くありました。
・小中高それぞれの取り組みを知り,学びが深まった。
・異校種の先生方の実践を知る良い機会だった。
・今後もこのような機会を継続してほしい。
この中でも最も多く見られた意見は,小中高の系統的な接続と情報活用能力育成の一貫性の必要性に関するものでした。教育段階ごとの内容差や授業設計上の課題を踏まえ,一貫教育・共通認識の形成・連携の場づくりの重要性が強調されていました。
・小中高の接続が可視化され,連携の重要性を再認識した。
・教員同士が共通認識を持って取り組む必要がある。
・各教育委員会や研究会が連携を支える仕組みを整えるべき。
・情報活用能力の育成には連携が不可欠である。
今後の発展に向けて,広報・共有・継続的発信を求める意見がありました。
単発で終わらせず,成果を蓄積・共有することで全国的な広がりを期待する声が複数ありました。
・配信だけでなく,短報などの形で公開・共有してほしい。
・実践内容を広める仕組みを今後も検討してほしい。
・各現場への展開や教育委員会との連携が求められる。
一方で運営側の制約条件で,時間が短かったこともあり,もっと時間が欲しかったというご意見も複数いただいた。学会としても,今回のシンポジウムを1回限りにせず,継続したり,他学会と連携したりしながら,情報・技術教育を小中高大とつないでいけることを検討したい。
以上

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